企業会計原則の一般原則,資本・利益区別の原則を簡潔に説明します。

企業会計原則,一般原則,資本・利益区別の原則を簡潔に説明します。(一般原則、三)

資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。

企業会計原則の一般原則,資本・利益区別の原則は、前段と後段を2つに分けて読みます。

前段は、「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し」、までです。

後段は、「特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」です。

つまり、資本・利益区別の原則は2つの意味があります。

企業会計原則の一般原則,資本・利益区別の原則。前段の「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し」

まず、前段の「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し」について説明します。

ここでいうところの、資本とは期首の自己資本のことです。この期首の自己資本と損益取引を区分するのは、正しい期間損益計算を行うためです。

資本取引とは、直接的に資本の増減を生じる取引です。増資や減資などが相当します。

損益取引とは、資本を利用して収益や費用を発生させる取引です。

例えば、現金100の払い込みを受けて、払い込み金額の1/2の50を資本金とし、残50は資本準備金とした。

なお、資本金の払い込みに際し、証券会社に現金10を払い込んだ。株式交付費は、今年度から3年で償却することにした。

上記の取引ですが、日本の会計基準では、資本金と資本準備金は合わせて100になりますが、現行の国際的な会計基準や米国基準では、株式交付費を資本から控除するために資本は45、資本準備金は45。合わせて90になっています。

日本の会計基準(ルール)と、国際会計基準及び米国基準の違いを下記に記載しました。

前段の「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し」(日本のルール)に即した処理にしたがうと下記の処理になります。

日本の企業会計原則や会計基準では、資本取引と、損益取引を、ごちゃ混ぜにしてはいけないということです。

現金 100 資本金 50
資本準備金 50
株式交付費 10 現金 10

一方、現行の国際的な会計基準では、株式交付費は、資本取引に付随する費用として、資本から直接控除することとされています。

簡単に言うならば、日本のルールは資本と準備金で合算すると100。国際的なルールでは資本と準備金で合算して90。日本のルールでは、シッカリ100を認識すべきである。一方、国際ルールでは、実際に入金(差引後)は90だから90とすべきであるということです。

下記は、日本の企業会計原則に基づいた、主張になります。

(1) 株式交付費は、株主との資本取引に伴って発生するものであるが、その対価は株主に支払われるものではないことです。

(2) 株式交付費は社債発行費と同様、資金調達を行うために要する支出額であり、財務費用としての性格が強いと考えられることです。

(3) 会社の意思決定に依存する資金調達に要する費用を、会社の業績に反映させることが投資家に有用な情報を提供することになることです。

企業会計原則の一般原則,資本・利益区別の原則。後段の「特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」

後段の「特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」について説明します。

ここでいうところの、資本とは期末の自己資本のことです。この期末の自己資本の資本剰余金と、利益剰余金を区別するのは、それぞれの剰余金の性質が異なるためです。

簡単に言うと配当原資にしてはいけない(維持拘束性)の性質をもつ資本剰余金。

配当原資にしてもOKな(処分可能性)の性質をもつ利益剰余金。を厳密に区別するためです。

配当原資にしてはいけないお金を社外流出させると「たこ足配当」になってしまいます。

その他資本剰余金は繰越利益剰余金と同様、株主への配当原資とすることができます(会社法第446条、第453条参照)が、企業会計原則の説明を優先します。

企業会計原則の一般原則,資本・利益区別の原則。まとめ。

説明が分かりにくかったかもしれませんので、下記のとおりまとめました。

原則の前段 原則の後段
意味 期間損益計算が目的である。 配当原資になるものと、配当原資に含めてはいけないものを区別したい。
資本 期首自己資本 期末自己資本
区別するもの 期首自己資本(資本取引)と、損益取引 期末自己資本の中の、資本剰余金と利益剰余金を分けたい
区別する理由 資本計算(資本取引)と、損益計算(損益取引)を区別しないと、正しい期間損益計算が行えない。 期末自己資本の中の、資本剰余金(維持拘束性)と利益剰余金(処分可能性)を分けたい
捕捉 期間損益計算(儲け(利益))の算定は、財務諸表の作成の基本命題です。 資本金は、次の、儲け(利益)を生むためのお金ですので、基本的には、これに手をつけてはいけません。配当して良いのは、儲け(利益)である利益剰余金です。
前段と後段で意味が異なる部分 期首自己資本について言及している。

期間損益計算について言及している。

期末自己資本について言及している。

維持拘束性。処分可能性について言及している。

簡単に言うと、儲け(利益)は株主(オーナー)に配当してもOKですけど、たこ足配当をやってまで、配当してはいけないということです。

タコ足配当の意味ですが、タコは自分の足を食べる習性を持っています。これは、儲け(利益)を出した以上に配当金を支払った場合は、企業の体力が暫時減少していくことに似ています。このタコの習性に、例えて、たこ足配当と言っています。

通常は、たこ足配当は、行わないのですが、似たような行為がある場合があります。たこ足配当は、かなりの危険性があります。

なお、企業会計原則の一般原則,資本・利益区別の原則は、資本回転率や、継続企業が前提である点や、期間損益計算などに深く関連してきます。